「雨で地面が滑る。
斜面がきつい。
しかも上陸時の戦闘で、仲間が半分やられている。
こんなところで、俺たちは何をしているんだ?」
その場に居た全員が、そう考えていたに違いない。
それでも命令は下されたのだ。
全部隊が前進を始める。
5分頃、前衛の偵察が、丘の稜線を前進してくる敵の姿を捉えた。
前方の森に敵が潜んでいるに違いない。
丘の影を利用して、部隊を散開させる。
森を半包囲し、M8支援戦車も配置につかせる。
さあ、戦いの始まりだ。
戦闘はあっさりとカタがついた。
敵は敗走し、逃げ遅れた者は捕虜となる。
ドイツ軍は、少ない戦力をさらにすり減らしたことだろう。
10分経過時点では、まだ敵の一部しか確認できていない。
正面の丘に敵のMG42が居る。
また、右側の森にも敵の存在が確認されている。
地形的に一斉攻撃ができない。
戦車を活用して、地道に前進するしかないだろう。
13分、迫撃砲と重機関銃の支援を受け、山頂を攻略すべく突撃を開始する。
ここを押えれば、全てのフラッグを眼下に見る事ができる。
本戦闘で最も大切な戦いとなるだろう。
一斉に突撃するアメリカ軍歩兵。
突如現れる新手の歩兵部隊。
しまった、待ち伏せだ。
敵の戦力を過小評価していたようだ。
突撃した兵士が、バタバタと倒れる。
大打撃を受け、突撃が頓挫してしまった。
このまま正面から攻撃するのは、リスクが大きすぎる。
やむを得ず、右翼の森に立てこもる敵に攻撃を集中する。
山頂を迂回して右に回りこみ、半包囲してから山頂を攻略するのだ。
15分、戦場から遠く離れたブドウ畑に、迫撃砲が着弾する。
支援砲撃の目標を誤ったらしい。
18分、ようやく右翼の森を確保する。
右翼の丘に敵のMG42が隠れており、側面から執拗に銃撃してくる。
困った事に、その位置が全くつかめない。
目くら撃ちの制圧射撃も効果が無い。
こいつのお陰で、かなりの損害を受けてしまった。
敵は部隊を一斉に後退させている。
新たな陣地で防衛するつもりだろうか。
しかし、タイミングが悪かった。
アメリカ軍の進軍が一足早く、その眼前を逃げる格好になったのだ。
次々と撃ち倒されるドイツ兵。
多くの仲間を失い、殺伐とした空気が流れているアメリカ軍に、慈悲の心は乏しかった。